朝日の恋人　未収録エピソード

　朝日の恋人３部作のうち、第１部「朝日の恋人」は全て単行本化されていますが、雑誌掲載から単行本になる際に細かな編集がなされています。本作のような連続物の場合、話の流れをスムーズにするためコマ単位、ページ単位の削除や改編はよくあることですが、中には数ページにわたるエピソードが単行本に収録されないでいます。
　と、いうことで判明した未収録エピソードを紹介します。

1970年28号

単行本２巻の43ページと44ページの間（天地政五郎の命を狙う殺し屋のダイナマイトに征二が巻き込まれてしまうエピソードの直前）に入るエピソード。約13ページが未収録
1970年28号画像
熱血コミックの主人公とは思えない情けない征二の姿・・・
真理が暴力団朱紋組組長の娘であることがわかった夏休み、その後真理と会えない日が続き、征二達は悶々とした時間を過ごしていた。
征二は昼寝の最中、夢の中で真理とデートをするも突然あらわれた朱紋組の子分に追い払われてしまう。馬場は柔道部の合宿で真理に会えないうっぷんを練習で爆発、罪のない柔道部員が犠牲になる。ただ一人、自宅の日本舞踊の道場に真理が通ってくる紫だけが幸せな日々を過ごしているのであった。

1970年29号

単行本2巻の49ページと50ページの間（天地政五郎の命を狙う殺し屋のダイナマイトに征二が巻き込まれてしまうエピソードの直後）に入るエピソード。約14ページが未収録
　朱門組組長を狙う殺し屋の投げ込むダイナマイトを体当たりで防いだ征二。だが自身もダイナマイトの爆風で負傷してしまった。真理の指示で組員によって朱門組の邸内に運び込まれるが、その際にケガの激痛で気を失ってしまう。
　翌朝 、目を覚ました征二は朱門組の屋敷の中の一室でケガの手当てをされ寝かされていた。そしてその傍らには征二を見守る真理の姿があった。
　往診に来ていた医者が帰るのと入れ替えに政五郎組長が部屋に入ってきた。征二をボウヤ呼ばわりしながらも政五郎は真理とともに征二に礼を言う。恐縮する征二。だが、何故あの場所にいたのかと問う真理に征二は答えることが出来なかった。
　その時、朱門組の組員が政五郎のところに報告に現れた。征二が気を失っている間、捕らえられた殺し屋二人は朱門組の組員たちによって締め上げられ、依頼主の名を白状したあげく指を詰めさせられていた。さらに報復について相談する組員。血なまぐさい会話に思わず取り乱す真理。その痛ましい姿を征二は見ていることが出来なかった。
　政五郎はその場から席を外すが、そこに征二の両親が押し入ってきた。征二が気を失っている間に、真理が連絡していたのだ。一人息子がヤクザの抗争に巻き込まれ負傷し、さらにその娘が息子の同級生であることを知り、真理を激しくののしる征二の母親。征二は真理を弁護するが、怒りに駆られた母親は征二を自分が勤める病院にうつしてしまった。
　以上、14ページが未収録です。朱門組解散前の真理の家庭内の描写はこの箇所だけであります。このエピソードが単行本ではカットされてしまったため、真理がつね日ごろから暴力団組長であることを悩んでいた描写がなくなってしまい、この後の多摩川の濁流での命を懸けた活躍と偽装自殺の動機が今一弱くなってしまった感があります。
よって、このエピソードは収録して欲しかったです。

 

1971年1号

単行本2巻の163ページと164ページの間（征二がこの世の別れに酒場に入るところ）に入るエピソード。約9ページが未収録。
　多摩川の激流に真理を失ってしまった征二。空虚な心のまま、学校をサボった征二は街をさまよう。
　子供たちが草野球に興じる夕暮れの公園のベンチにたたずむ征二。その心の中に、激流に姿を消す直前に真理がささやいた言葉が思い出される。
「あの真理の愛は真実だったのか。それともおれをゆだんさせて、最後の一本のロープでおれを救うため、たんに恩返しの目的だけの作戦だったのか？」

　その時、征二の足下に草野球の子供たちのボールがころがってきた。返球を迫る子供たち。
「よし、このボールにかけてみるか！力いっぱいの豪速球を返球して、そいつをチビッコがうまく捕球できたらおれは真理に愛されていた。捕球できなかったらあれは恩返しのためだけの作戦だった・・・・・と」
　征二の豪速球の返球を子供はひっくり返りながらも捕球する。征二の顔につかの間の笑みが浮かぶ。しかしすぐにそれは虚しいひとりよがりと気がついてしまった。

それでも真理の愛を信じる征二は再び夜になった街をさまよう。真理の後を追うことを決意した征二はせめてその前に酒をあおろうと考え、ある酒場に入って行った。
 
　以上9ページが未収録。そのうち3ページは多摩川のエピソードの回想シーンです。この回想シーンはセリフは元と全く同じですが、絵は全て描き直されています。また、この未収録のため、単行本の該当ページでは時間が昼から夜に一挙にとんでいるのがわかりました。

 

1971年7号

単行本２巻と3巻の間に入るエピソード。9ページが未収録。
1971年7号画像1 　朱紋組の解散が決定し、行方不明になった真理も復学して、また元の学園生活が始まった。あいかわらず学科の方はさえないが、体育の実技では不破先生が舌を巻くほどの技を見せる真理。一方多摩川の事件以降、真理の家庭のことを問題にするものは学校にはいなくなった。かといって征二達と真理との距離が近くなることもなく、少々残念な征二、馬場、芳村。
1971年7号画像2 12月に入り2学期を締めくくる演劇祭が催された。征二達のクラスの出し物は「白雪姫」。主役は真理で、征二達は7人の小人たちを演じた。劇は絶賛されたが複雑な心境の征二であった。

ここで紹介したエピソードは、全体からみれば削除されても止むなしの内容であります。しかしながら登場人物のキャラクターをより深める内容でもあり、そういう意味ではカットされたことはいささか残念です。

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